コロナ時代の丼🍑
〜ニチアサを通っていないオタクと大先生脚本『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の信じがたい至福の物語〜
当方自他ともに認める筋金入りのオタク気質の腐
己の腐りオタク心を自覚してからはやウン十年 王道中の王道、
ニチアサを絶妙に通らずに生きてきた 『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を観るまでは━━━━━━━━━━━━━━
スーパー戦隊、仮面ライダー、プリキュア 通らずに生きてきた理由はなんといっても日曜の朝起きられないからだ。
特にスーパー戦隊の時間には起きた事がほとんど無い 稀に起きてじっくり鑑賞してみたら、
どうしても幼心に許し難い事が一つあった 。
最後の方で尺稼ぎのためか?倒したはずの敵が理由なく巨大化して復活するのが許せなかったのだ。
『それいけ!アンパンマン』でバイキンマンがアンパンチ後に理由なく更にデカく凶暴になって帰ってきた事があっただろうか?(知らないだけであるかもしれない)
仮面ライダーは同様に起きられないのと、いつ見ても深刻そうな展開で日曜の朝から観るにはしんどかった。
プリキュアは初代だけは観たような気がするが世代ではないためか流し見だった。
(セーラームーンは世代なので観ていたがイマイチ記憶が薄い
夢のクレヨン王国だけはDVDBOXを買う程好きだ)
ウルトラマンなど他の特撮ヒーローモノも通っていないオタクだったのが、
ある日突然全く世代ではない超人バロム1に突然ハマりDVDで全話観るハメになる。
BOOK・OFFでたまたま手に取って開いた本がさいとう・たかをの「バロム・1」(週刊ぼくらマガジン連載)だった。
ガキ大将と優等生が合体すると1人の超人、ゴルゴ13顔のバロム・1に変身するという設定が腐心をくすぐり、 漫画版を全巻購入した上、東映特撮版DVDも全話視聴、ヤゴゲルゲが当時の人に与えた恐怖などを知り、 ハマり狂った結果発散の場として全く関係ない作品の二次創作同人誌の底本にしたのだった(?)
突然の特撮沼に変な角度でハマっていたその頃、 「東映不思議コメディーシリーズ」が大好きだという友人から 『ペットントン』という作品を教えてもらった。
浦沢義雄脚本の洗礼であった。
当時彼女と私は同じ職場で働いていた。
(元々はイナズマイレブンを通じネット上で知り合った)
仕事内容や賃金はともかく定時が早く、退勤後に趣味で同人誌を描くにはうってつけの職場だった。
昼休みに職場の方々と共にお昼を食べるとなると、家庭の愚痴及び推しのアイドルグループの話が主で、 アイドル沼には所属しておらず、子持ちでも無いので共通の話題も無く、会社でお昼休みを過ごすのは苦行だった 。
そのため、昼休みは会社から程近い友人の家に上がり込み、そこでお弁当を食べながら 東映ファンクラブで配信されていた『ペットントン』を毎日のように見せてもらっていた。 (その節は本当にお世話になりました)
浦沢義雄脚本はすべて常に狂っていたが 職場もなかなかに狂っていたので、
狂いと狂いが掛け合わさり私の精神は整っていった。
ペットントンがなければもっとガタガタだっただろう。
「ホニホニカブーラ・ムニムニザボレ」
浦沢義雄健康法はあります。
ペットントンを全話見終わってしまった後は同じ浦沢義雄脚本の『激走戦隊カーレンジャー』を見始めた。
『カーレンジャー』は私が戦隊モノでいちばん嫌いな、
「最後の方で尺稼ぎのためか倒したはずの敵が理由なく巨大化して復活する」に 「芋長の芋羊羹を食って回復したから巨大化する」というきちんとした(?)理由があった所や、 敵の女大将(ゾンネットちゃん)とカーレンジャーが交換日記をしたりと敵同士なのにコッソリ愛を育んでいる所、 雇われカーレンジャーが会社員で薄給なのに我が身を危険に晒してカーレンジャーをやっている事を嘆いたりしている描写などがとても面白く、私の「スーパー戦隊シリーズ」への嫌悪感は好印象に変わっていった。
ただ、こんな生活を長く続けていてはいけないと強く感じたため、その後そこの職場は退職し、 カーレンジャーは全話履修せずじまいで途中で終わっている。
その後何やかんや色々あり2022年春、私は『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』と出会ってしまった━━━━━━━━━━━━━━
井上敏樹脚本の洗礼であった。
コロナ禍のためか、今までYouTubeで有料配信しか無かったような東映の作品が次々無料配信されており、 新しい「スーパー戦隊シリーズ」もお試しのような形でYouTubeで見逃し配信がある上に、 アマプラで配信もあるという。これなら日曜の朝起きられなくても鑑賞できる。 もともと昔話の桃太郎の物語自体に非常に興味があるし、変身した全員の等身が様々で、 「ピンクが男性」「実質的主人公はイエローの女の子」「それぞれの年齢も境遇もバラバラ」という設定に、 今までと違う挑戦的な姿勢を感じて初めてリアルタイムで追いかけてみようと思ったのだった。
ニチアサ民には井上敏樹さんは脚本家として有名だそうで、 その脚本の素晴らしさだけでなく御本人の生き様が尊敬され、エッセイ本がPLANETSから出版されている程らしい。
不勉強のため全く存じ上げなかった私は、今回『ドンブラザーズ』の1話を視聴後、ただならぬ脚本家の仕事ぶりを感じ、 まず井上敏樹御本人について簡単に調べる事にした。
親子三代脚本家という脚本家一家らしく、 父親である伊上勝さんのwikiを読んだだけでもただならぬ人物である事が感じられ、 初代の仮面ライダーの脚本を担当された方と知った。
驚いたのは、井上敏樹さんがインタビューで 好きな作品に ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』をあげていた事だった。
何となく好みだなと思った脚本家の方が好きな小説が同じだという事に驚くと共に非常に納得し、 井上敏樹さんはマジックリアリズムをスーパー戦隊で表現しようとしているのではないかと感じた。
また「やんごとなき御方」=「ドンモモタロウ」が神輿に担がれて天女を引き連れてやってくるシーンは、
自分が大好きなインド映画や中国ドラマの同様のシーンを思い出してテンションが上がったが、
井上敏樹さんはインドに縁が深いどころかインドに修行に行って「スワミディアン・ムネシュ」というインド名を授かった(?)と
知って度肝を抜かれた。 家庭が崩壊してて悩んでいるからって普通の人はインドに修行に行かん。
ネット上で軽く調べただけでも、井上敏樹さんの脚本に自分が強く惹かれた理由がハッキリとわかり、 すっかり「縁ができてしまった」私は気づいた時にはプレミアムバンダイでドンモモタロウの扇子を予約していたのだった。
本当はサングラスも欲しい。
他に『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』で魅力的に感じたのは 至る所で「多重に韻が踏まれて複数の意味をなしている」ところ。
タイトルだと 桃太郎→暴太郎=アバター、暴君=織田信長のイメージを重ねている
ドンブラザーズ→桃がドンブラコと川を流れる擬音、 事前に仕込まれていたメタネタでの丼物ブラザーズの丼、首領=ドン 、それに仕えるブラザーズ(桃太郎のお供達、お友達)
技の名前では 快桃乱麻アバタロ斬=快刀乱麻、アバタロ斬に桃太郎さん♪の歌を合わせるなど、 唸るほど巧妙に様々な重ね合わせがなされている。
(この多重に韻を踏むのが好きなのはこの解説文を読むと、もしかしたら脚本家の方でなく、プロデューサーの白倉伸一郎さんのセンスなのかもしれない)
また脚本で好きな点は、
時事ネタ(盗作問題など)も盛り込んだエグめの社会風刺、
変身する事でヒーロー自身も己の幸運を失っているという設定、
己の欲望によって鬼になった「人間」
愚かな鬼となった人間を退治する正義の執行者「脳人」
鬼を退治するというより救済しようとする「ドンブラザーズ」という
単純な勧善懲悪モノではない複雑な三つ巴の対立が面白い。
昔話の桃太郎でも鬼と呼ばれている者が現地の人々には尊敬されていた首領で、 鬼を退治して宝物を奪い取った桃太郎こそ蛮族であるという解釈もできる。
また、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の配信に合わせてなのか、
東映時代劇チャンネルで『桃太郎侍』の配信も始まっており、 以前から気になっていたので初めて鑑賞したところ、 『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の桃井太郎と桃太郎侍が非常に似た性格なのだとわかり、 東映の「桃太郎モノ」の系譜と歴史を感じて嬉しくなった。
残念なのはアバターシステムで歴代のヒーローたちが出てきても、過去のスーパー戦隊を未履修なため、 ネタがわかっていない点で、自分のニチアサ及びスーパー戦隊弱者ぶりが情けない。おいおい履修していきたい。
長く果てしなく気持ち悪くなりましたが毎週日曜日の楽しみが増えて嬉しい限りです。
ここまで読んでくださった方は否が応でも「縁ができてしまった」ので『ドンブラザーズ』を観ているもしくは観てくださるでしょう。
※この記事のタイトル及び副題はガブリエル・ガルシア=マルケスの作品名をもじりました